僕にとっての東京喰種は、そうですね、半分だけ狂気を飼っているという意味では共感できるものなんです。
主人公は金木研という男。カネキは普通の人間でしたが喰種だったリゼの臓器が移植されて半喰種となっ…僕にとっての東京喰種は、そうですね、半分だけ狂気を飼っているという意味では共感できるものなんです。
主人公は金木研という男。カネキは普通の人間でしたが喰種だったリゼの臓器が移植されて半喰種となってしまいます。人間と喰種のハーフになった彼は苦悩の日々を過ごします。
喰種の証である赫眼は左目だけに現れコントロール不能、喰種と同じように人間を肉を食べなければいけない、というように、喰種の仲間にも人間の仲間にもなれない葛藤。
僕と一緒です。
昼間の僕は、ごく普通の人間であり、会社員として振る舞っています。上司からも可愛がられていますし、決められた役割は全うしているつもりです。会話は人間らしくあるための作り話で本心は一つも話していません。
夜になると僕は街に吸い込まれてしまいます。お金を払って相手を傷つける権利を買うんです。肉体的な飢えじゃありません。魂の飢餓感を埋めるために攻撃的でサディスティックな部分をさらけ出す。
彼女たちは事前に決められた台本の通り演じてくれます。叫び声も涙も懇願も計算された舞台装置。僕が支払った金額分の時間が終われば繋がりは消え、虚無感だけが残ります。
僕はこの渇望に喰種の食事を重ねて見ています。昼間と夜の二面性を持ち、限られた場所でのみ本性を解放する。
きっと誰しも人間はこうなのではないでしょうか。展開▼
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遺書を残し、親が失踪してから6ヶ月。
原因は借金だった。だから借金取りに脅された。「お前の親は悪いことをしたんだ」「だからお前も悪いんだ」と怒鳴られた。
そのとき僕は中学3年生だった。
15…遺書を残し、親が失踪してから6ヶ月。
原因は借金だった。だから借金取りに脅された。「お前の親は悪いことをしたんだ」「だからお前も悪いんだ」と怒鳴られた。
そのとき僕は中学3年生だった。
15歳なんて大人に片足を突っ込んだ年齢だと思うかもしれない。全然そんなことはない。借金取りに脅されたら、ただ怖くて震えるだけだ。
そして、ある日のこと……。
親が帰ってきた。生きていたのだ。
そして約束をした。大切な約束だ。「もう居なくならない」と言った。
失踪したことも、借金取りもどうでもいい。大事なのは「もう居なくならない」という約束だった。
しかし、ほどなくして約束は破られる。
その日、僕は学校から帰ってきて、嫌な予感がした。家の駐車場に車がある。仕事でいないはずの時間だ。なんだか冷や汗が出た。部屋の奥に入った僕は119に電話をかけることになる。親は睡眠薬をガブ飲みして手首を切って倒れていたからだ。
大事なのは約束だ。約束は破られた。
僕は親から捨てられたのだ。
この絶望から僕を守ったのがドリームキャストというゲーム機だった。
親に捨てられる少し前、ちょうどKanonというゲームを買っていた。KanonはKeyが制作したアドベンチャーゲームの第1作目。最近で言えば「ヘブンバーンズレッド」の系譜と言えばわかるだろうか。Kanonは約束と別れと奇跡の物語だ。約束をした大切な人との強制的な別れ。その別れに奇跡で抗うのがKanonのストーリーである。
ストーリーはもちろんのこと、音楽がとても良かった。当時の僕は、美しいメロディのピアノ曲、なんてものに触れたことがなかった。だからKanonが奏でる音楽に魅了された。親から捨てられた悲しみを乗せて音楽を聞いた。ゲームを起動したあとの朝影。カセットテープに録音して聞き続けた。奇跡が起きると思った。音楽を聞きながら夜の道を歩き続けた。
現実はゲームのようにうまくはいかなかった。美坂栞が「起きないから、奇跡って言うんですよ」と言ったように。展開▼
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親が遺書を残して失踪した。
その2日前。
僕はスレイヤーズの小説を買っていた。古本屋のまとめ売りで10冊セット。以前からスレイヤーズのアニメが好きだったので、安く原作小説が手に入ったことはラッキ…親が遺書を残して失踪した。
その2日前。
僕はスレイヤーズの小説を買っていた。古本屋のまとめ売りで10冊セット。以前からスレイヤーズのアニメが好きだったので、安く原作小説が手に入ったことはラッキーだった。
しかし、2日後にはアンラッキーが訪れる。普段なら帰宅する時間になっても親が帰ってこない。仕事場に連絡した。
返事はこうだ。
「そんな人は働いてないけど?」
どうやら何ヶ月も前に仕事を辞めていたらしい。毎日のように仕事に行っているフリをしていたようだ。家に帰らず何処へ行ったのだろう。
家の中に手がかりを探した。書類棚に遺書が見つかる。「探さないように」と書かれていた。
衝撃だった。「親なんて時間になったら当たり前に帰って来るものだ」……そんな幻想は打ち砕かれることになる。そして、僕はうまく声を出せなくなった。いわゆる発声障害だ。
朝起きる。学校に行く。誰とも喋らずに帰ってくる。そんな生活で壊れそうな心を守ったのがスレイヤーズだった。
小説を読んでいる間は現実を忘れられた。意識を本の世界に集中させる。脳を圧迫するように呪文を覚えた。黄昏よりもくらきもの、血の流れより紅きもの、時の流れに埋もれし、偉大なる汝の名において、我ここに闇に誓わん、我らが前に立ちふさがりし、全ての愚かなるものに、我となんじが力もて、等しく滅びを与えんことを。竜破斬。20年以上経った今でも覚えている。ちなみに漫画版では埋もれしを「うずもれし」と読み、アニメ版では「うもれし」と読む。
てなわけで、僕は親の失踪のショックをリナ=インバースとともに歩んできたのだ。
これがスレイヤーズの好きなところである。どんなシリアスなシーンでも「てなわけで」とか「ひょんなことから」って言えば、なんだか軽い感じがするだろう。さっきまでの絶望が嘘のようだ。スレイヤーズが、リナ=インバースが僕の人格形成に影響を与えたのは間違いない。どんな絶望からでも立ち上がる力をくれる。それがスレイヤーズという作品である。展開▼
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太平洋戦争の終わりごろ、実際にあった疎開保育園の物語です。
親元を離れた園児は53人。空襲に怯えながら、親と別れた寂しさに耐えながら、それでも生き抜こうとする子どもたちを守る保育士のストーリーです…太平洋戦争の終わりごろ、実際にあった疎開保育園の物語です。
親元を離れた園児は53人。空襲に怯えながら、親と別れた寂しさに耐えながら、それでも生き抜こうとする子どもたちを守る保育士のストーリーです。
みっちゃん先生と子どもたちが接しているだけで、そこに温かい絆のようなものを感じますし、忘れていたものを思い出させてくれます。実話をもとにしているので、ラストの衝撃展開や伏線回収などはありませんが、だからこそ真っすぐに心に響きました。展開▼
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暁佳奈先生が紡いだ美しき物語。原作は三巻の本と、一冊の外伝に綴られています。私が触れたのは、2018年に放送されたアニメシリーズでした。
物語の舞台は、大戦の火がいまだ残る土地。主人公は、かつて…暁佳奈先生が紡いだ美しき物語。原作は三巻の本と、一冊の外伝に綴られています。私が触れたのは、2018年に放送されたアニメシリーズでした。
物語の舞台は、大戦の火がいまだ残る土地。主人公は、かつて戦場で「武器」そのものとして扱われ、「戦闘人形」と呼ばれた少女、ヴァイオレット・エヴァーガーデン。彼女は両腕を失い、今は郵便社に身を置きます。「自動手記人形」として、人の想いを言葉に綴る日々の中、彼女の凍てついていた何かが、静かに目覚めてゆくのです。
その軌跡を追ううち、幾度となく涙が出ました。
戦火の記憶が冷めやらぬ世界で、人々が交わす言葉は、あまりに繊細なガラス細工のよう。けれどヴァイオレットは「心」を知りません。ただ戦うためだけに適応した彼女の魂は、空っぽなのです。ゆえに、彼女にとって唯一の光であった少佐が最期に残した「愛してる」という言葉の意味を、彼女は理解せずにいました。
自動手記人形の務めとは、依頼主の心の奥深く、言葉にならない想いをすくい上げ、それを言葉へと変えること。面と向かっては伝えられぬこと、胸の底に沈めた真実が、手紙を経て、大切な人へと届けられるのです。答えの見つからぬ「愛」とは何か。深い問いを抱え、彼女は人々の心に触れ続けます。
彼女の綴る言葉が、誰かの救いとなる様子は、心を揺さぶります。それは、人が幸福に生きるという、複雑な寄木細工の、失われたひとかけらのようでした。
私自身、長らく同じ業種で働いてきました。仕事のコツや配分、手の抜き方もわかっています。ともすれば、世間からの評価や対価にばかり気を取られがちです。 けれど、今も昔も変わらず、ふとした縁に心が躍る瞬間があります。何も知らない相手と心が通じ合ったと思える瞬間。そこに喜びを感じます。
どのような仕事であれ、人が人のために何かをする所業の中に、「愛」のかけらが息づいているのかもしれません。展開▼
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『夏目友人帳』であやかしと人の絆を紡いだ緑川ゆき先生が描く、もうひとつの幽玄なる物語。四十五分という束の間の夢。観る者は、夏の森の奥深くへといざなわれます。
物語の始まりは、六歳の少女・蛍が、神…『夏目友人帳』であやかしと人の絆を紡いだ緑川ゆき先生が描く、もうひとつの幽玄なる物語。四十五分という束の間の夢。観る者は、夏の森の奥深くへといざなわれます。
物語の始まりは、六歳の少女・蛍が、神隠しにでもあったかのように「山神の森」へ迷い込む場面。そこは、人ならざるものたちが息づく、禁じられた森でした。
深い緑の中、彼女は青年の姿をしたギンと出会います。ですが彼には、人の肌に触れると、その存在が霞のように消えてしまうという、哀しい呪いがありました。
その日以来、夏が巡るたび、蛍はギンの待つ森へ通います。年に一度きりの、まるで七夕の星々にも似た逢瀬。夏休みが重なるごとに、二人は言葉にこそせずとも、互いの胸の奥底で淡い想いを静かに育んでいきました。
人の娘と、あやかしの青年。触れ合えぬまま季節は幾度も移ろい、幼かった蛍はうら若き乙女へと姿を変えます。二人の間にあるのは、恋と呼ぶにはあまりに切なく、友情と呼ぶにはあまりに深い、魂の結びつき。
題名にある『蛍火』。それは闇夜に明滅する儚い光であると同時に、消え入りそうに揺らめく残り火をも意味します。ギンの存在は、まさにその蛍火のよう。守るべき大切な誰かを見つけるまで、消えることなく燃え続けた、尊い光です。
もし、想いが通じ合う瞬間が、そのまま永遠の別れの始まりだとしたら。 これほどまでに胸を締め付ける、苦味を帯びた終焉があるでしょうか。
『蛍火の杜へ』は、そのような、束の間の、しかし永遠に忘れえぬ光の物語なのです。展開▼
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