遺書を残し、親が失踪してから6ヶ月。
原因は借金だった。だから借金取りに脅された。「お前の親は悪いことをしたんだ」「だからお前も悪いんだ」と怒鳴られた。
そのとき僕は中学3年生だった。
15…遺書を残し、親が失踪してから6ヶ月。
原因は借金だった。だから借金取りに脅された。「お前の親は悪いことをしたんだ」「だからお前も悪いんだ」と怒鳴られた。
そのとき僕は中学3年生だった。
15歳なんて大人に片足を突っ込んだ年齢だと思うかもしれない。全然そんなことはない。借金取りに脅されたら、ただ怖くて震えるだけだ。
そして、ある日のこと……。
親が帰ってきた。生きていたのだ。
そして約束をした。大切な約束だ。「もう居なくならない」と言った。
失踪したことも、借金取りもどうでもいい。大事なのは「もう居なくならない」という約束だった。
しかし、ほどなくして約束は破られる。
その日、僕は学校から帰ってきて、嫌な予感がした。家の駐車場に車がある。仕事でいないはずの時間だ。なんだか冷や汗が出た。部屋の奥に入った僕は119に電話をかけることになる。親は睡眠薬をガブ飲みして手首を切って倒れていたからだ。
大事なのは約束だ。約束は破られた。
僕は親から捨てられたのだ。
この絶望から僕を守ったのがドリームキャストというゲーム機だった。
親に捨てられる少し前、ちょうどKanonというゲームを買っていた。KanonはKeyが制作したアドベンチャーゲームの第1作目。最近で言えば「ヘブンバーンズレッド」の系譜と言えばわかるだろうか。Kanonは約束と別れと奇跡の物語だ。約束をした大切な人との強制的な別れ。その別れに奇跡で抗うのがKanonのストーリーである。
ストーリーはもちろんのこと、音楽がとても良かった。当時の僕は、美しいメロディのピアノ曲、なんてものに触れたことがなかった。だからKanonが奏でる音楽に魅了された。親から捨てられた悲しみを乗せて音楽を聞いた。ゲームを起動したあとの朝影。カセットテープに録音して聞き続けた。奇跡が起きると思った。音楽を聞きながら夜の道を歩き続けた。
現実はゲームのようにうまくはいかなかった。美坂栞が「起きないから、奇跡って言うんですよ」と言ったように。展開▼
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親が遺書を残して失踪した。
その2日前。
僕はスレイヤーズの小説を買っていた。古本屋のまとめ売りで10冊セット。以前からスレイヤーズのアニメが好きだったので、安く原作小説が手に入ったことはラッキ…親が遺書を残して失踪した。
その2日前。
僕はスレイヤーズの小説を買っていた。古本屋のまとめ売りで10冊セット。以前からスレイヤーズのアニメが好きだったので、安く原作小説が手に入ったことはラッキーだった。
しかし、2日後にはアンラッキーが訪れる。普段なら帰宅する時間になっても親が帰ってこない。仕事場に連絡した。
返事はこうだ。
「そんな人は働いてないけど?」
どうやら何ヶ月も前に仕事を辞めていたらしい。毎日のように仕事に行っているフリをしていたようだ。家に帰らず何処へ行ったのだろう。
家の中に手がかりを探した。書類棚に遺書が見つかる。「探さないように」と書かれていた。
衝撃だった。「親なんて時間になったら当たり前に帰って来るものだ」……そんな幻想は打ち砕かれることになる。そして、僕はうまく声を出せなくなった。いわゆる発声障害だ。
朝起きる。学校に行く。誰とも喋らずに帰ってくる。そんな生活で壊れそうな心を守ったのがスレイヤーズだった。
小説を読んでいる間は現実を忘れられた。意識を本の世界に集中させる。脳を圧迫するように呪文を覚えた。黄昏よりもくらきもの、血の流れより紅きもの、時の流れに埋もれし、偉大なる汝の名において、我ここに闇に誓わん、我らが前に立ちふさがりし、全ての愚かなるものに、我となんじが力もて、等しく滅びを与えんことを。竜破斬。20年以上経った今でも覚えている。ちなみに漫画版では埋もれしを「うずもれし」と読み、アニメ版では「うもれし」と読む。
てなわけで、僕は親の失踪のショックをリナ=インバースとともに歩んできたのだ。
これがスレイヤーズの好きなところである。どんなシリアスなシーンでも「てなわけで」とか「ひょんなことから」って言えば、なんだか軽い感じがするだろう。さっきまでの絶望が嘘のようだ。スレイヤーズが、リナ=インバースが僕の人格形成に影響を与えたのは間違いない。どんな絶望からでも立ち上がる力をくれる。それがスレイヤーズという作品である。展開▼
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暁佳奈先生が紡いだ美しき物語。原作は三巻の本と、一冊の外伝に綴られています。私が触れたのは、2018年に放送されたアニメシリーズでした。
物語の舞台は、大戦の火がいまだ残る土地。主人公は、かつて…暁佳奈先生が紡いだ美しき物語。原作は三巻の本と、一冊の外伝に綴られています。私が触れたのは、2018年に放送されたアニメシリーズでした。
物語の舞台は、大戦の火がいまだ残る土地。主人公は、かつて戦場で「武器」そのものとして扱われ、「戦闘人形」と呼ばれた少女、ヴァイオレット・エヴァーガーデン。彼女は両腕を失い、今は郵便社に身を置きます。「自動手記人形」として、人の想いを言葉に綴る日々の中、彼女の凍てついていた何かが、静かに目覚めてゆくのです。
その軌跡を追ううち、幾度となく涙が出ました。
戦火の記憶が冷めやらぬ世界で、人々が交わす言葉は、あまりに繊細なガラス細工のよう。けれどヴァイオレットは「心」を知りません。ただ戦うためだけに適応した彼女の魂は、空っぽなのです。ゆえに、彼女にとって唯一の光であった少佐が最期に残した「愛してる」という言葉の意味を、彼女は理解せずにいました。
自動手記人形の務めとは、依頼主の心の奥深く、言葉にならない想いをすくい上げ、それを言葉へと変えること。面と向かっては伝えられぬこと、胸の底に沈めた真実が、手紙を経て、大切な人へと届けられるのです。答えの見つからぬ「愛」とは何か。深い問いを抱え、彼女は人々の心に触れ続けます。
彼女の綴る言葉が、誰かの救いとなる様子は、心を揺さぶります。それは、人が幸福に生きるという、複雑な寄木細工の、失われたひとかけらのようでした。
私自身、長らく同じ業種で働いてきました。仕事のコツや配分、手の抜き方もわかっています。ともすれば、世間からの評価や対価にばかり気を取られがちです。 けれど、今も昔も変わらず、ふとした縁に心が躍る瞬間があります。何も知らない相手と心が通じ合ったと思える瞬間。そこに喜びを感じます。
どのような仕事であれ、人が人のために何かをする所業の中に、「愛」のかけらが息づいているのかもしれません。展開▼
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『夏目友人帳』であやかしと人の絆を紡いだ緑川ゆき先生が描く、もうひとつの幽玄なる物語。四十五分という束の間の夢。観る者は、夏の森の奥深くへといざなわれます。
物語の始まりは、六歳の少女・蛍が、神…『夏目友人帳』であやかしと人の絆を紡いだ緑川ゆき先生が描く、もうひとつの幽玄なる物語。四十五分という束の間の夢。観る者は、夏の森の奥深くへといざなわれます。
物語の始まりは、六歳の少女・蛍が、神隠しにでもあったかのように「山神の森」へ迷い込む場面。そこは、人ならざるものたちが息づく、禁じられた森でした。
深い緑の中、彼女は青年の姿をしたギンと出会います。ですが彼には、人の肌に触れると、その存在が霞のように消えてしまうという、哀しい呪いがありました。
その日以来、夏が巡るたび、蛍はギンの待つ森へ通います。年に一度きりの、まるで七夕の星々にも似た逢瀬。夏休みが重なるごとに、二人は言葉にこそせずとも、互いの胸の奥底で淡い想いを静かに育んでいきました。
人の娘と、あやかしの青年。触れ合えぬまま季節は幾度も移ろい、幼かった蛍はうら若き乙女へと姿を変えます。二人の間にあるのは、恋と呼ぶにはあまりに切なく、友情と呼ぶにはあまりに深い、魂の結びつき。
題名にある『蛍火』。それは闇夜に明滅する儚い光であると同時に、消え入りそうに揺らめく残り火をも意味します。ギンの存在は、まさにその蛍火のよう。守るべき大切な誰かを見つけるまで、消えることなく燃え続けた、尊い光です。
もし、想いが通じ合う瞬間が、そのまま永遠の別れの始まりだとしたら。 これほどまでに胸を締め付ける、苦味を帯びた終焉があるでしょうか。
『蛍火の杜へ』は、そのような、束の間の、しかし永遠に忘れえぬ光の物語なのです。展開▼
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~王様ランキング~にはカゲというキャラクターが登場する。その存在は、まるで私の歩んできた道のりを映し出すかのように感じられる。
影の一族に生まれたカゲは、どこへ行っても「影」として扱われる。事情…~王様ランキング~にはカゲというキャラクターが登場する。その存在は、まるで私の歩んできた道のりを映し出すかのように感じられる。
影の一族に生まれたカゲは、どこへ行っても「影」として扱われる。事情がどうであれ、影であるというだけで信頼を得ることは難しい。
幼いころを振り返ると、そこに悪意はなかったはずなのに、疑念の視線は絶えず注がれる。信じてもらえない。知らぬ間に周囲が形をつくり悪魔のような姿を押しつけていく。もともとツノなど生えていないのに、仮面をかぶせられてしまう。
中学生の掃除当番で、体育館倉庫の鍵を返すために廊下を歩いていた。
その途中で、いつも一緒に遊んでいる3人の友人と出会う。倉庫に入ろうと誘われ、鍵を持っていたことから同行することになった。
倉庫に入ると、一人がタバコを取り出し、試しに吸ってみようという流れになった。扉の鍵が開く音が響いて先生が入ってきた。偶然タバコを手にしていたのは私だった。
掃除当番で鍵を管理していたことに加え、タバコを持っていた状況が重なり、首謀者だと決めつけられた。残る三人は「無理に付き合わされた」と証言した。誘われただけの一般生徒と、悪に引き込んだ不良の生徒という立場が決まった。
仮面を外せないまま歩いた。
素顔を隠したまま、こっそりと仮面にラクガキを重ねることで注目を散らす。ツノに目を向けられないようにする。その姿はまさにカゲの歩みと重なる。
「悪魔ではない」と言ってくれる人もいた。最後には裏切られることもあった。それでもなおカゲは自分の道を選び、信じることを諦めない。今度こそボッジを信じたいと願ってるし、カゲを応援してる。展開▼
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